受験勉強
大学入試を40日後に控えたある日、主人公は理恵と同じ大学に入学することを決意し、受験勉強に励むことになる。
理恵のささやかな望みをなんとか叶えてやりたくて始めた受験勉強だったが、やはり遅すぎた。
初めて受けた模試の結果は芳しくなく、主人公は、自分の合格を信じて疑わない理恵に対して、現役合格が不可能だということを彼女の親友、佐倉真由美から話してもらえないかと頼む。
だが、佐倉の態度は冷ややかだった。

・・・俺自身は、大学受験の勉強はしなかった。
大学進学ではなく、情報処理系の専門学校を選んだからだ。
「就職するとしたら、コンピュータ関係の仕事かな・・・」くらいの漠然とした希望と、何よりも「受験勉強」をするのが嫌だったのだ。
まぁ、レベル的に大した高校じゃなかったから、大学進学があんまり現実的な選択肢とは思えなかったというのもあるが。
高校受験の時も、自分の学力に応じた学校を選んだから、合格するために必死で勉強したわけでもなかった。

思えば、これまでに学校の定期試験前日の一夜漬け以外に、自宅で勉強したことがあっただろうか・・・?
・・・ほとんどない。
まして、一日中机に向かっていたことなど、全く記憶にない。
それどころか、あの時の俺はよく頑張ったなぁ、と振り返ることができるほど、自ら目的を持って何かに打ち込んだことがあっただろうか?
・・・ない。

そこで俺は思うのだ。
「もし、高校の時に理恵のような女の子と知り合えていたら、もしかすると大学受験に燃えることができたかもしれない。
そしてあの時、一生懸命勉強していれば、今とは違った別の人生が開けていたかも知れないなぁ」と。

だが、それを佐倉が聞いたなら、きっとこう言うだろう。

「”もしやっていたら”と言ったわね。そんな仮定は、自分の無力さを忘れるための詭弁だわ」
「今の自分のみじめさを弁護したいのよ。本当は自分はもっと価値がある、って妄想してるだけだわ」
「自分で自分をごまかしているんだわ。みっともないことよ」

「ラブ・エス」に登場するキャラたちは、いろんな夢を持っている。
夢に向けてまっすぐな気持ちを持ち続けている人たちの言葉は、しばしば俺の心に響くのだ。

「そりゃ、親父に言えば、説得すれば、店の資金を出してくれるかもしんないな。でも。おれはごめんだな。」
「これは、おれの夢で、実現させんのはおれなんだ」
「親父の力を借りて実現させたら、おれは一生じぶんのこと情けねぇやつだって思うはめになるよ。だから、それはできねぇよな」

「おれは、自分のやりてぇことをやるだけだ。別に人がそれをどう思おうと、そんなのは知ったことじゃねぇよ」
「人にどうこう思ってもらうために生きてるわけじゃねぇからな」


・・・夢か。
夢もなく、毎日を怠惰に過ごすことは、人生を無駄にしているような気がする。
こういう風になりたい、とか、ああしたい、という気持ちが何かを実現するための原動力になるのだろう。
それは、わかる。
だが、今の俺の夢は「これが俺の夢だと思えるものが欲しい」なのだ・・・。

この発言も佐倉の耳に入れば、きっと呆れた顔でこう言われるのだろう。

「あなた何歳なの?いつまで甘えたこと言ってるの?現実は、あなたの都合なんて考えてくれないのよ?」

・・・まったく耳が痛いね(^^;
この世で一番大事なもの
大学の補欠合格の通知が届いた日、ついに主人公は脇谷に理恵との関係を知られてしまう。
脇谷のショックは計り知れない。
信じていた人に裏切られる。
それも、たった今まで親友だと思っていた人にだ。

「おれたちは親友だな?」

そう確認せざるを得なかった彼の気持ちは、あまりにも切なく、痛い。

結局、主人公は親友を失ってしまう。当然だ。
恋愛と友情、どっちを取るのか?
どちらも失いたくなかった。
だから、曖昧にしていた。重大な問題を先送りし続けていた。
本当に親友や恋人のことを考えたなら、脇谷にちゃんと打ち明けておくべきだったのだろう。
そうすることで、一時的に友情にひびが入ったかもしれないが、永久に親友を失うような最悪の事態にまでは陥らなかったに違いない。
だがもう遅い。

失意と後悔の日々を送る主人公は、ある日、森と再会する。
森は、主人公に微塵の同情を見せず、その言葉は容赦がない。
しかし彼の鋭い台詞が、虚ろな主人公の目を覚まさせるのだ。

「そこで、だ。今きみがこの世で一番大事なものはなんだ?一番失いたくないものはなんだ?考えろ」
考えてみた。
一瞬にして、胸の中に理恵の姿が現れた。理恵のことを考えた。
彼女の笑顔。涙。おどけたしぐさ。
自分にとって、彼女より大事なものなど何もない。
「理恵・・・」
彼女は今何をしているのだろう、と考えた。
「きみは理恵を失いたくない。なら、行動しろ。きみが理恵を失わないために、きみにできることをやれ」


この時、俺は主人公が妬ましかった。
もし俺が主人公と同じ立場になり、一番失いたくないものを問われたとき、こんなにも明確にその存在を意識できるだろうか?
・・・失いたくないものは、確かにある。
でも、彼女より大事なものなど何もない、と言い切ることはできそうにない。
そう言い切る為には・・・自分も彼女に愛されたいよね、やっぱり(泣)。
一方的に熱くなるのは、情けないもんな〜(泣)。

夢を持てない主人公と俺。
だけど、彼は一番大事なもの、一番失いたくないものを持っていた。

・・・俺も一番大事だって思えるものを見つけたい。
FATED PLEDGE
そして、卒業式の日。
冒頭に引用した理恵の台詞のシーンに流れるBGMのタイトルが「FATED PLEDGE (SILENT-VER.)」というらしい。

あまりにもせつないBGM。
メロディ、ベースライン(というのかな?)共に、とにかくせつないのだ。
理恵の気持ちがよく表れているというか・・・。

これが「ラブ・エス」で一番心に残った曲なので、タイトルの意味を調べてみた。

”fated”
「運命の決まった、運の尽きた」
”Pledge”
「誓い、誓約、約束」
以上から「運命の誓い」といったところであろう。

そして、”fate”の欄には、こうも書かれていた。

「神などの意志によって定められた、避けられない運命。特に不運な宿命の意に用いることが多い。」
(以上、研究社「ライトハウス英和辞典」からの引用)

この理恵の正直な気持ちを綴った台詞は、親友を裏切っただけでなく、互いに愛しあっていたはずの男に深く傷つけられ、それでも嫌いになることができないほど、その男を深く愛してしまった、その不運な宿命に対して逃げたりせずに、あくまでもその想いを貫き通すという誓いなのだろうか・・・。

ところで「ラブ・エス」のCD−ROMの中にはデモが2本収録されているが、今あらためて「ラブ・エス」のデモを見てみた。

デモ中に流れるBGMは、この「FATED PLEDGE」の別アレンジだと思われる。
「SILENT-VER.」が、その名の通り、理恵の静かな決意を表現しているのに対して、こちらは、主人公の理恵への強い想いが、中盤の海月節(勝手に命名(笑))ともいうべき激しいリズム部分によって表されているような気がするのだ。
↑音楽用語はさっぱりなので、意味不明な説明になってると思うけど・・・(^^;

・・・しかし、最後の「1997年初夏発売予定」くらい修正しとけよな・・・(爆)。
最期に戯言
俺としては、主人公にフラれてほしかった。

だってさ、主人公って「ラブ・エス」に登場する男性キャラの中で一番魅力ないというか、かなり最低なヤツだと思わない?
主人公より脇谷の方がよっぽどいいヤツだと思うんだけどな。
そんなヤツがなんで理恵ちゃんに愛されるんだろうなぁ。
理恵ちゃんのことをあんなに傷つけたのにさ。
脇谷に殴られた時、俺も「もっと殴れ」って思ったし(笑)。
まったく世の中って理不尽だよな〜(爆)。
だから、俺は主人公のことが嫌いなんだけど、これってつまり、ただ単に俺が嫉妬してるだけ?(自爆)

あと、スタッフロール後の「数年後」っていうのは必要なかったんじゃないかって思う。
どうやら理恵ちゃん関係の数年後の話は2種類あって、マルチエンディングということらしいけどエンディングを迎えて複雑な思いの余韻に浸ってるところに、水を差されたような気がする。
その後の2人のことは、あえて語らないでほしかったな。
・・・というか、理恵ちゃんが主人公と結婚するなんて、なんだか悔しいぞ(爆)←おいおい

あ、そうそう、理恵ちゃんを語る上で(いつからそうなった?(爆))外せないのが彼女の口癖。

「ギャァーン!レギュラーなのだ!」
「ズキュゥゥゥン!!」
「ギャァーン!」
「ドッギャァーン!できたぁ」
「へへ・・・。ドッギャーン!・・・専日大学に合格したの」
「じゃ、ちょっと、テストね。・・・ズッギャアーン!理恵の世界史クイズ〜!」


この理恵ちゃん独特の擬音語が愛らしくていいよね(笑)。
エピローグ
・・・98専用のゲームとしては、事実上の最後の作品となった「ラブ・エスカレーター」。
本当に心に残るいい作品だと思います。
このゲームのおかげで98捨てられなくて困ってるんで、是非 Windows に移植して欲しいですね(笑)。
とにかく、スタッフの皆さま、お疲れさまでした。
次回作も期待しています。

ページ作成:蒼月 白羽