加奈〜いもうと〜
(C) 1999 D.O.Corp.
Last Update 2002/01/16

メーカー 発売日 対応機種 HDDインストール容量
D.O. 1999年6月25日 Windows 98/95 約218Mバイト
(Win98でFAT32の場合)

第1回 1999/07/07(07/14,08/18 修正)
さて、今回は第1回目ということで、なるべくネタバレなしでいってみたいと思う。
これを読んで「加奈」をプレイしてみようかなって思ってもらえたなら、非常に嬉しいのだけれど。
なお、現時点でのプレイ状況としては、全部で6つあるエンディングのうち3つを見たところだ。

まずは、ノベル系ゲームでもっとも重要なシナリオについて。
まぁ、話のネタ、というか、基本的なストーリーラインはよくある題材といっていいのかもしれない。
主人公には病弱な妹がいる、と。
幼い頃は、単なる過保護以上に親の愛情を独占する妹を子供心に憎んでいたが、ある日を境に憎しみのベクトルは180度逆転し、少年は病弱な妹を唯一絶対に守るべき存在として認識するようになる。
そして、入退院を繰り返しながらも、なんとか17歳になった妹、加奈を今日も見舞いに来た主人公だが・・・という感じで始まるんだけど。

う〜む、ネタバレなしで書くのは結構きついかも(^^;

とにかくここで書きたいのは、その何ていうか、生々しいまでのリアリティ。
「加奈」もこの手のゲームではよくある、主人公(大学生だ)の一人称で綴られていくのだが、まるでシナリオライター自らの経験を語っているかのような現実感に満ちているのだ。
それは、加奈の詳しい病状の描写といった、医学的知識の深さが生み出すリアリティ、というだけではなく、主人公の心情を深く丁寧に洞察し、それをあますことなく描ききった文章力は、もはや圧倒的ですらある。

さすがにその冷静沈着な語り口からは、大学生にしては大人びているなという印象を受けたが、たとえていうなら、ある程度年をとった親しい友人から、昔の思い出話を聞かせてもらっているという感じがした。
親しい友人の話、というのは、主人公の名前がデフォルトのまま変更できないというところからそう思ったのだけど、だからといって感情移入できないわけではない。
むしろ、自分と名前だけが同じで(当たり前だが)考え方は全く違う「他人」の行動を「俺はそんなことしないぜ〜」と違和感を抱きながら見るよりは、よほど心に響く「思い出話」だといえよう。

そう。これは思い出話なのである。
主人公・隆道が幼い日から少しずつ、だが確実に積み重ねてきた、妹・加奈との大切な記憶・・・。
それは、時に痛く、時に穏やかに過ぎていく、かけがえのない日常であり、それらがまるで自分のことのように伝わってくるシナリオに、俺は本当に魂を揺さぶられてしまったのだ。

また、話のテンポというか、ノリもよく(隆道はかなりの話し上手のようだ)プレイ開始後すぐに「加奈」の世界に引き込まれてしまったし、文章のリズムというのかな、それがすごく心地いい。

最初のプレイでは物理的な文章量の多さと、じっくりと読み進めたこともあって、かなり時間がかかった(2日間で計7〜8時間くらいか)んだけど、途中でだれることなどなく、時間さえあれば一気に終えていたにちがいない(1日目は朝6時までプレイしてしまい、さすがに仕事がヤバかったので無理矢理途中で切り上げたのだ(^^;)ということからも、テンションの高さとかその持続性がわかってもらえるんじゃないだろうか。

そして「あっ、来た来た来た〜(涙腺が緩んでる)」と目頭が熱くなってきているところに、さらに激しく畳みかけてくるような巧さにやられたり、画面上の隆道と完全にシンクロしちゃって、じわじわとこみ上げてきた熱い感情が一気に爆発したりとか、とにかく泣かされまくりました(^^;
涙が出た(「北斗の拳」風だと「ぶわっ」と漢泣き(笑))だけでなく、マジで声をあげて泣いてしまいそうになったところもあったしなぁ(苦笑)。

まだまだ全然書き足りないんだけど、まぁ、今回はファーストインプレッションということでそろそろまとめに入りますか。
・・・って、大分書き直したり追加したりもしてるけど(笑)。

もともと、この「加奈〜いもうと〜」は、結構前から目を付けてたソフトでした。
それは、原画(米倉けんご氏)が俺の好きな漫画家さん(エロマンガだけどな(爆))だというのが最初に目を付けた理由なんだけど、今回、氏の描くグラフィックも冴えてたと思います。
まぁ、初めてパッケージイラストを見たときは、以前にマンガで見たときから絵柄が変わってて、少し癖があるなぁ(持ち味が出てきた、とも言えるのだろうが)とは思ったのね。
だけど、実際に本編をプレイしてみると、子供時代から少しずつ大人へと成長していく加奈を見事に描き分けているし、そのはにかんだ笑顔とか、幼さを残した表情は、強く抱きしめれば折れてしまいそうなほどに華奢で、まさに「はかなげ」な雰囲気を持っている。
つまりそれは、話しぶりとかしぐさなどからうかがえる加奈のイメージとぴったりで、はっきりいってすげ〜可愛いです(^^;

あと忘れちゃいけないのが、BGM。
リーフや折戸氏の作品のように、単独で聞いても魂を揺さぶられる、というほど自己主張はしていないけれど、胸を打つシナリオや、脚本をうまく汲み取って描かれたCGに浸りながら聞く音楽としては絶品だと思うよ。
控えめだけど、いつの間にかその存在が心に強く響いてる加奈のように、ね。

3曲収録された歌(主題歌、エンディング、挿入歌)もいい。
主題歌は、雑誌に収録されたデモで初めて聞いたんだけど、これがまたこの1曲聞くためだけでも「絶対買い!」と思わせるほど、せつなくて泣かせるのよね〜。
挿入歌も流れるタイミングの巧さもあって、破壊力倍増だし。
そうそう、この3曲は今でもよく聴いてて、通勤時に愛用しているMDウォークマンの中に常駐しています(^^;

とまぁ、ここまで長々と書いてきましたが、今回もっともいいたいのは一言だけ。
「絶対やれ!」
第2回 1999/07/13(07/14 修正、及び掲載)
「加奈」のいんぷれっしょんも2回目ということで、ここからはネタバレありで書きたいと思う。

もし、あなたがまだ「加奈」をプレイしていないのなら、↑にある1回目のいんぷれっしょんを先に読んでいただきたいのだ。
俺のヘボヘボプ〜な文章で、この作品に対する思い入れをどれだけ伝えられるかはわからないが、できるだけたくさんの人にプレイしてもらいたい。そして、感じてほしいと切に願います。


今日、5つ目のエンディングを見ました。

・・・今回も、加奈は助かりませんでした。
全部で6つしかないのに。あと、残りはひとつしかないのに。

確かに、5つの結末、そして、そこへ至る物語に、俺はすごく感銘を受けました。涙もたくさん出ました。

人が、誰かのことをとても大切に思って、守り抜くって誓って、そして、それがその人を成長させ、本当に強くなり、大切な人を支えて、でも逆に支えられもして、生き抜いて、死にゆく時の、悔いはないからっていう言葉が本当に本当の想いだということも、俺は知っている。
最期に録音された、愛しています、っていう言葉にいろんないろんな想いが込められていて、しばらく涙が止まらなかったことも事実だ。

だけど、だけど、今の俺が心から望むのは、ただひとつの結末。
どんなにチープでご都合主義な展開でもいい。
「奇跡」のひとことで全てを片づけてしまっても構わない。
だから、加奈を、隆道が心から大切に思い、真摯に愛した加奈が元気になって「お兄ちゃんのおかげで、加奈は元気になったのよ」って、はにかむ笑顔を見せるハッピーエンドを、こんなにも俺の心を熱く振るわせ、俺にとっても大切なふたりのために、どうか用意してあげてください。

人が強く祈ったとき、誰かを大切に思う力が、どんな難病ですらも吹き飛ばす奇跡を生むんだよ、ってそう信じたいから。

もちろん、これまでの5つの物語を否定するつもりは全くないのだ。

・・・人の生き死にを扱ったシナリオって、まぁ、言ってしまうと「お涙頂戴」な話になってしまいがちだし、それがあまりにもあっけなかったり、いかにも「クライマックスなので殺しました」という、脚本家の独りよがりが鼻について、感動どころか逆に醒めてしまうことがよくある。
で、この「加奈」も、あらすじだけを見るとまさにそんな話だといえるのかもしれない。
しかし、死にゆく者とそれを見送る者のお互いに嘘のない、尊い別れ。
自分の余命があまりないという、辛く恐ろしい事実からも目をそらすことなく、まっすぐに見据えてそれを受け入れた、人の強さ。
それでも不意に訪れる、確実な死への恐怖・・・。
本当にいろいろと考えさせられたのだ。

須磨子さんの最期の言葉、「さようなら・・・ありがとう」。
俺も死にゆくときに、こんなに穏やかに、そして、優しい気持ちでその時を迎えられたら、って、そう思ったりもしたし。
とまぁ、シナリオに関しては、本当にじっくりと丁寧に描かれているという印象が強い。

幼いときに持っていた妹への暗い嫉妬心が、いくつかのきっかけを経て守るべき存在へと移り変わっていき、そして、禁忌を感じながらも押さえきれないものを抱くに至った、隆道の10年にも渡る加奈への想いがまさに自分のことのように感じられたからだ。

あと思うのは、この作品も最近流行(?)の「感動系」のノベルゲームに分類されるのだろうが、何ていうか、プレイを終えた後に、とにかく人に勧めまくる(「感動したぜ、泣けたぜ、だから、やれ〜!!」)気にはなれないということ。
もちろん、一人でもたくさんの人がこの作品に触れてくれることを強く願ってはいるが、どちらかというと、時々、しんみりと思い出しては、いろんなことを考えてみたくなるような不思議な作品だ。
亡くなった加奈を偲ぶというか、ね。

そういえば、加奈の日記が隆道の手によって清書され、文庫本化されるというエピソードがあったよね。
それは、自分の生と死を見つめて生き抜いた彼女の遺志でもあるんだけれど、こうしてこの作品を手に取ってプレイした俺の心にも確かに何かが残ってるっていうことを知ったら、加奈は喜んでくれるのだろうか・・・。

あまりにもリアルで、深く掘り下げて描かれたシナリオに、実は加奈は実在していて、隆道=シナリオライターなんじゃないかって思ったりもしたけど、それはどうでもいいことなんだろうな、やっぱり。

まぁ、とにかく今いえることは、今後、人の死について考えるとき、「加奈」のことが頭のどこかに浮かぶだろうってことかな。
そして、これまで恐怖の対象でしかなかった死も、人生に悔いが残らなければ、おそれずに受け入れられるんじゃないかっていう、加奈の言葉がしっくりきたということとか。
つーわけで、人生の最期の瞬間に悔いが残らないように、今をしっかり生きないとなぁ。

あ、一応ひと区切りついたような気がするぞ(^^;
それでは、今回はこの辺で。

> 『どんな願いでもかなえてくれる神様がいたとして・・・加奈なら何を願う?』
> 『わたし・・・生きたい』


・・・この文章を藤堂 加奈に捧ぐ。
第3回 1999/07/19(07/20,21, 修正、07/21 掲載、2002/01/16 細部変更)
> 確かに 私 生きてる
(エンディングテーマ「あなたへ」より)

そう、きみは確かに生きている。
自分の足で、しっかりと地面を踏みしめて立っている。

> あなたのために 生きてく

そして・・・きみは走り出す。

独り立ちのときなのに、きみはちっとも怯えてなんかいないし、強い意志を宿した大きな瞳は、溢れんばかりの希望に満ちた未来を写して光り輝いている。
俺は、そんなきみの姿にややまぶしそうに目を細め、少しばかり視線を後ろにずらす。
そこには、ちょっぴり寂しそうな、でも誇らしげにきみを見守る隆道の姿があるのだ。


物語のラストに流れるエンディング曲「あなたへ」を、俺はこれまでとは違った暖かい気持ちで聞いていた。
「あぁ、この曲はこの結末・・・いや、始まりのときを歌ったものだったんだな」って。

・・・「加奈」の残りひとつの結末は、俺が望んでいたような安易なハッピーエンドではなかった。
むしろ、それ以上に大きな意味を持った、まさにトゥルーエンドだったのだ・・・。

確かに、加奈が助かった、つまり、移植手術が成功したのは、奇跡なのかもしれない。というか、作中でもそう言っていたっけ。

数万人に一人の確率という適応率。
ましてや、ふたりは実の兄妹でもない「他人」であるのにだ。

そもそも臓器の適応率というものが、こんなにも低いこと自体驚きだが、加奈の場合、隆道の腎だったからこそうまくいったのだと、俺は思う。
加奈は、きっと隆道以外の誰の臓器も受け入れないんじゃないかってそんな風にも思った。
つまりそれは、奇跡じゃなくて、必然だったのかもしれないな・・・。

それにしても、加奈は強くなった。

隆道が「はかなげ」と評していた加奈。
幼い頃から病弱で、学校にもほとんど行けない。
だから他人との交流もなかったし、それを望みもしなかった。
ただ唯一といっていい保護者に守られ続けてきた。

保護者である隆道は、加奈のことを心から心配していた。
加奈に健康になって欲しい。そして、心も強くなって欲しい、と。
だけど、加奈の身体はそれを許さなかった。

多臓器不全。一歩ずつ確実に歩み寄ってくる死。

隆道は自分の身体の一部を加奈に分け与えた。
それは、まさに死の淵に飲み込まれていこうとする加奈をすんでの所で救いあげた1本の太い糸だったが、彼女が受け取ったものはそれだけではなかったのだ。

これまでずっと隆道の背中に隠れて、おどおどしていた加奈が、就職先を自分で見つけたばかりか、家を出て一人暮らしをするのだという。
愛する人に守られる。それは確かに心地よく、そこから飛び出すことなど昨日までの加奈なら考えたこともなかったに違いない。
しかし、加奈の下腹部に確かに存在する隆道の腎が、保護者の腕から離れて一人で生きていくための勇気を与えてくれたのだ。

一人で?いや、そうではない。
これからは守られるだけの非保護者ではなく、ふたり肩を寄せ合って二人三脚で生きていくのだ。
もう隆道は、病室のベッド脇にあるパイプイスに腰掛けて、その目線を加奈に合わせて低くする必要はない。
お互いの目線は今、ふたりの肩越しに同じ高さになったのだから。


これまで「加奈」のテーマ(まぁ、俺的には、ということだけど)というか、とても印象深かったのは主に「人の死」に関わることだった。
ストーリーが重い、と感じたのも「人の死」というものを厳粛に、そして尊いものとして扱っていたからだろうし、5つのエンディングを見てきて、死生観というか、人生の終末について・・・自分だけでなく、肉親や知人との別れのときにどう関わるのか、というかね・・・深く考えさせられたから。
だけど、このトゥルーエンドによって「生きていくこと」についても何か、心に残ったような気がするのだ。・・・うまく言えないけれど。

だから俺は今後、この「加奈」について思い出すとき、加奈が最期に選び、隆道に残した言葉にたくさん涙を流したこと・・・それは、深い深い感銘を受けたし、今も心のどこかを静かに振るわせているが・・・と共に、あの「百点満点な笑み」も思い浮かべることができることに、正直、安堵を覚えているのだ。
これで「加奈」を晴れやかな気持ちで終えることができる、というかね。


最後に。

制作スタッフの方々には、深い感謝の気持ちを。
隆道と加奈には、精一杯の祝福を贈りたい。

そして、ふたりの未来に幸あらんことを。
ページ作成:蒼月 白羽

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